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誘電性と磁性の絡み合った現象の探究

「磁場と磁化」,「電場と電気分極」,「応力と歪み」の関係に履歴現象を生じる物質は,強磁性体,強誘電体,強弾性体と各々呼ばれ,その履歴特性によって物性の外場応答が不揮発性を示すことからエネルギー消費の少ない情報保持が実現でき,機能性材料として電子デバイスなどに広く用いられ,現代社会を支える基盤となっている。これらの性質を持つ物質はひとまとめに「フェロイクス」と総称されるが,さらに,単一の物質中で複数のフェロイックな性質を持つ物質は「マルチフェロイクス」と名付けられ,近年,その研究は急速に進展してきた。本研究室では,従来のマルチフェロイクスの範疇を超えた新しいタイプのマルチフェロイック結合の創成および新規マルチフェロイック物質開発を行い,複数の構造・電子秩序状態の結合に起因する新規な電子物性・機能の実現を目指している。

最近の研究例

(1) 磁気四極子ドメインの観測

  電場によって磁化が、磁場によって電気分極が線形に誘起される「線形電気磁気効果」を有するマルチフェロイック物質においては,光を入射したとき, 光の電場成分と磁場成分に比例した振動磁化と振動分極が物質中に誘起される「線形電気磁気光学効果」が生じ、これが光の伝搬にも影響を与えます。 反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4 は左下図に示すような 四極子型スピン配列 を有し,このスピン配列に起因した 線形電気磁気光学効果 により, 互いに直交する二つの直線偏光の吸収量に違いが生じる 「線二色性」を生じます。 さらに、四極子のプラスとマイナスを入れ替えることによっても、線二色性の符号が反転します。そこで本研究室では 試料の各位置での線二色性を調べることで、試料内部における四極子のプラスとマイナスの分布(ドメイン)を可視化できる と期待し, 直線偏光を利用した光学顕微鏡(偏光顕微鏡)により結晶の様子を観察したところ、右下図に示すように四極子ドメインを明瞭に可視化することに成功しました。 偏光顕微鏡観察という簡便な手法で磁化を持たない反強磁性体の磁気ドメインを可視化したのは本研究が初めてとなります。研究の詳細はこちらをご覧ください。

左図: Pb(TiO)Cu4(PO4)4 における四極子型スピン構造。
右図: 観測された四極子ドメイン。

(2) 強軸性ドメインの観測

 強誘電性,強磁性に加わる新たな秩序状態として近年注目を集めつつあるのが強軸性(ferroaxial)です。強軸性は結晶内の原子の回転歪みによって特徴づけられる秩序状態のことを指します。このような秩序を有する強軸性結晶においては,時計回り構造と反時計回り構造が強軸性ドメインを形成すると考えられます。
我々はこの異なるドメイン間で電場で誘起される旋光(electrogyration)の向きが互いに逆向きになることに着目し,強軸性結晶NiTiO3において,電場で誘起された旋光の空間分布測定を行うことで,強軸性ドメインを可視化することに成功しました。強軸性ドメインが直接的に観測されるのは初めてのことです。研究の詳細についてはこちらをご覧ください。

左図: 強軸性ドメイン(反時計回り:A+,時計回り:A-)と電場(E)で誘起される旋光角(Φ)の関係の模式図。
右図: 観測されたNiTiO3における強軸性ドメインの空間分布。赤と青のコントラストが強軸性ドメインに相当する。

>研究科ページでは動画で研究内容を紹介しています

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